在宅ワークからオフィス勤務に戻す会社が増えています。
6月に、6500近くの企業に対して行われたインターネット調査によると、中小企業では現在、30%弱が在宅ワークを実施。大企業では現在も実施している企業が過半数を超えるものの、組織の中で在宅ワークを実施している従業員の割合は、1割程度という回答が最も多いという結果になったそうです。
2年におよぶコロナ禍で在宅ワークのメリット・デメリットも見えてきており、従業員も企業側もこれからどのような働き方がベストなのかという悩みを少なからず抱えているようです。
企業で働く人からは、働く場所や時間に関して「柔軟な働き方」を求める声が強まっています。
一方で企業側の立場としては、従業員が完全在宅の環境では新しいことを始めることが難しかったり、生産性が落ちてしまったりするのではないかという懸念が拭いきれません。
在宅ワークの生産性に関しては、2020年と2021年を比較して、過去2年間で徐々に高まっているとするデータもありますが、それでも在宅での生産性は職場勤務と比べて平均で20%ほど低く、在宅での生産性が職場よりも低い人の割合が70%以上を占めているということです。
そういった在宅ワークの現状を踏まえると、多くの企業がこのままの状態を継続するよりも「オフィス回帰」へと動いているのは自然な流れなのでしょう。
とはいえ、企業は働く側のオフィスに行くのに気が進まない気持ちも汲み取り、改めてオフィスの良さを実感できるような仕組みを作れるかどうかが人材確保などにもこれまで以上に影響してくるはずです。
そういった中で、バッジを使って従業員同士が気遣い合えるシステムを新しく導入した企業が出てきています。
バッジで従業員のコンディションを見える化する
株式会社音研では、『しゃいんのHP見える化バッジ』を導入したそうです。
ゲームでよく見かける、横に長い棒グラフのようなHPレベルをバッジにしたもので、HP満タンの状態を10,000ポイントとしてさまざまなHPレベルのバッジが用意されており、フルに近いと緑、中位レベルだと黄色、HPが少ない状態は赤として一目でその人の今のコンディションがわかるようにデザインされています。
このバッジを見えるところに身につけていることによって、まるでゲームを友達と一緒にプレイしているかのように、相手のコンディションを知った上で仕事を任せるかどうかを判断できたり、すれ違いざまに気にかけたり、職場でのさりげない気遣いのコミュニケーションを促しているようです。
中には自分のモチベーションを上げるため、あえてHP満タンのバッジを付けてプラシーボ効果を狙うなど使い方のアイデアもユニークで、従業員からの評判が良かったために同社の通販サイトでバッジの販売も始めたといいます。
「オフィスの価値ってなんだろう?」と振り返ってみれば、ふと同期に声をかけられたり、エレベーター待ちの時間やすれ違いざまに交わす会話からアイデアが生まれ、問題解決やイノベーションへと発展しやすくなることだったという意見が上がります。
けれど、オフィスで何気なく交わしていた日々の雑談からしばらく離れていた従業員にとって、久しぶりにオフィスで他の従業員と話すのは、例えるなら数年ぶりに同窓会に参加した時のように落ち着かない気持ちになるものかもしれません。
オフィスで自然発生する雑談コミュニケーションの価値を再確認するために、バッジのような”チーム意識を高め、ちょっとした会話のきっかけになりやすい仕組み”を新たに取り入れてみるのは、このオフィス回帰の過渡期にこそ有効なのではないでしょうか?
バッジで帰属意識が高まり、閉塞感から解放される
在宅ワークからオフィスに戻る従業員のストレスが注目されていますが、マイクロソフトが3万人を超える同社の正社員にアンケートを取ったところ、特にヨーロッパでは社員が在宅ワークに強いストレスを感じている傾向が見られたそうです。
ドイツでは在宅ワークをしている人の42%が「毎日、正常ではない疲れを感じる」と答えたというように、仕事も家庭のことも人の手を借りにくくなったために、精神的にも不安定になりやすい状態に陥っていることがわかったということです。
仕事と家庭の境目がある方が、仕事においても家事育児においても実は人の手を借りやすいということが言えるのかもしれません。
柔軟な通勤時間やハイブリッドワークなどでオフィス勤務のデメリットを減らすとともに、今後企業が投資をすべきは、オフィスで働く中で従業員がちょっとした人との助け合いを実感できるような「帰ってこられる場所」づくりなのだといいます。
集中して働くならば在宅の方が邪魔をされなくて良いという話もありますが、いくら自分だけで頑張っても生産性は上がりにくく、人とのやりとりからヒントを得たり救われたりすることで逆に、生産性は上がりやすくなるものです。
前出のHPバッジが社員によってアイデアからデザイン・制作までされているように、缶バッジのような自分たちでデザインして身につけられるものでチームの帰属意識を高めることは、すぐに始められる企業努力の一つなのかもしれません。
コミュニケーションのきっかけをつくる缶バッジを通じて、コロナによって多くの人が感じてきた閉塞感から解放され、自然と生産性もアップする職場づくりの一助になりたいと思います。
参考資料 :
■ 株式会社東京商工リサーチ「第22回『新型コロナウイルスに関するアンケート』調査」2022年
■ 森川正之 「新型コロナと在宅勤務の生産性:パネルデータ分析」2021年