コロナ感染対策のため、マスクを着用することが当たり前になる中で、接客業においてはマスクに笑っている口元をプリントし、付けるだけで笑顔に見せることができるマスクなども話題になりました。

そうした中で静岡県の富士市にあるホームセンター「エンチョー 富士店」では、マスクを着用している店内スタッフが全員、自分自身の笑った顔がプリントされている缶バッジを胸に着けています。

こちらの「スマイルバッジ」は富士市にある障害者就労施設で製作されているもので、元々のきっかけは地域の花屋さんのアイデアから始まり、スタッフの笑顔の写真撮影も地域の写真店が手がけ、地域ぐるみでつくられているそうです。

まちで店を運営する人々は、地域の人々に馴染んでいたスタッフの笑顔を缶バッジで再現することによって雰囲気を明るくし、まちに活気を取り戻したいという思いを強めています。



「花粉症です」の次は、笑顔の缶バッジをつけよう


コロナ以降、「花粉症です」「喘息です」などコロナでないことを示して接する人の不安を取り除こうという缶バッジが次から次へと登場しているように、接客の現場においてもコロナ以降、ピリッとした空気が漂っています。

そうした中で、お客様を温かい雰囲気で迎えるスタッフの心の余裕をどのように生み出すことができるかということも、店を運営する上で非常に重要な課題になってきているように思います。



接客や除菌の仕事など、感染の不安を常に抱えながら仕事をするスタッフに、どのように気持ちのゆとりを提供できるかが店舗運営の鍵

接客業の現場における感染対策に関して、昨年行われたインターネットでのアンケート調査では、20代〜50代までの接客に関わる仕事に従事する630名の回答者のうち約8割が、職場内での感染の不安や対面接客時に不安を感じていると答えています。

コロナによって不安を抱えるようになったのは訪れるお客様に限らず、お客様と日々接するスタッフにも同様なのはいうまでもありません。



季節のイベントごとに接客の現場に笑顔を取り戻す、スタッフの手作り缶バッジ

しかしながら、不安やストレスに晒されている状態はそれ自体が免疫に与える影響は少なくなく、例えば「テスト前に風邪をひきやすい」というように、白血球中のリンパ球や細胞の働きが低下するなどしてより病気になりやすい状態が作り出されてしまいます。

反対に、笑っている状態は免疫細胞であるナチュラルキラー細胞が活性化して免疫力がアップし、より病気になりにくい方向に向かいます。

科学的なリサーチに限らず、日本でも「笑いは百薬の長」といいますし、ドイツでは「三回薬を飲むより一回笑うほうが良い」ということわざもあるそうで、笑いの効果は遥かに感染の危険が多かった時代から伝えられてきた知恵でもあります。

正しい予防策や除菌方法を知るという知識ももちろん大切ですが、笑顔の自分の缶バッジを身につけることで和やかな職場を取り戻すことも、スタッフの心身にポジティブな影響を与えることができるのではないでしょうか。



スタッフの気持ちが上がる、おそろいの缶バッジ


笑うと自身の体の緊張が緩むと同時に、笑いかけた相手との間にある緊張もほぐれます。

コロナ以前からマスクが着用されてきた医療の現場においては、これまでにもマスクによる表情の伝わり方に関するリサーチがされてきました。

都内のドラッグストアでは、マスクを着用した薬剤師に対して薬局に訪れる人がどのように感じるかという調査が行われ、マスクを着用することで薬剤師の表情が伝わりにくくなることによって薬剤師に対する印象や信頼は低下しやすくなり、訪れる人が薬剤師に相談しにくくなってしまう傾向がみられたそうです。

マスクを着用しているとその人の表情を読み取ることが難しくなり、通常よりも24%間違えやすくなるというリサーチ結果も今年発表されました。

「目は口ほどにものを言う」といいますが、人はうれしいことがあったときも嫌なことがあったときも、気持ちが昂ぶることがあれば同じように瞳孔が開いてしまうため、目だけで感情を通わせるのは難しいのかもしれません。



マスクをしている人の表情を読み取ろうとするとき、通常より24%間違えやすくなる

スタッフの笑顔が印象的な愛知県一宮市のあるケーキ屋でも、運営の一つのアイデアとして、キャラクターの缶バッジをスタッフ全員が名札と一緒につけて働いています。

スイーツ業界は全体として、コロナ禍の巣ごもり需要で活気付いています。

しかしながら、人々にお取り寄せやコンビニスイーツでなく街の洋菓子店に足を運んでもらうにはどうすればいいかと考えたとき、違いを生み出せるのは働く人なのだと、こちらのケーキ店ではスタッフの力を発揮できる環境づくりに努力がされてきました。

スタッフのつけている缶バッジはそもそも、ケーキをお買い上げいただいたお客様に地域ぐるみでプレゼントしていたものでしたが、そのデザインがとても可愛かったため、「せっかくだからみんなでつけよう」と店舗内でもつけるようになったのだそうです。

店では缶バッジを名札につけることでスタッフの気持ちが一つになり、団結力がアップしたということです。



スタッフみんなの笑顔が印象的な愛知県一宮市にある洋菓子店シトロンヴェール。「小さな幸せのひとときを届ける」というメッセージにスタッフが一丸となって取り組む

冒頭でご紹介した静岡県富士市の「スマイルバッジ」もこちらのケーキ店のキャラクター缶バッジも、スタッフの存在を際立たせ、スタッフが楽しいと感じるような店舗運営に缶バッジが用いられています。

インターネットで買い物をすることが加速度的に普及したこれからは、何よりもまずスタッフが安心して働ける、居心地の良い状態を整えることによって、お客様にとって足を運ぶ価値のあるビジネスができるようになるのではないでしょうか。



一人一人のお客様と向き合うように、スタッフ一人一人と向き合いじっくり付き合う(愛知県一宮市にある洋菓子店シトロンヴェール)

外出時マスク着用の暮らしが長くなって、私たちは店舗スタッフの笑顔の価値を再確認することができたようにも思います。

缶バッジを一つのツールとしてスタッフの笑顔や意欲を取り戻すことが、勢いづくネット販売やコロナの不安に包まれがちな接客業の現場において、これまで以上に大きな価値を生み出していくでしょう。



参考書籍 :
■伊藤一輔 「よく笑う人はなぜ健康なのか」日本経済新聞出版、2009年 
■松本光正「笑いと健康 君子医者に近寄らず」 本の泉社、2010年