愛知県一宮市にある昭和2年創業の株式会社マスターは、半世紀以上に渡り地域の人々から愛されてきた老舗企業。
愛知県内でトップクラスの実績を誇る看板事業、全国屈指の七夕として知られる「一宮七夕まつり」の装飾やステージ設営、大型スポーツ施設のサイネージ施工など業務は多岐に渡ります。
特に今年(令和3年)は、一宮市制施行100周年、中核市への移行など多くの祝事が重なり、株式会社マスターにも記念すべき年となりました。
今回は、缶バッジを通じて行われた「三岸節子記念美術館」や喫茶店とのコラボレーション企画の経緯や取組み、株式会社マスターが大きな期待を寄せる若きデザイナー「山下ほたる」さんの一宮市への思いなどについてお伺いしました。
コラボレーションの始まりは、一宮市が生んだ女性洋画家「せっちゃん」の缶バッジ
バッジマンネット:
市制施行100周年、中核市への移行など一宮市を代表する企業である株式会社マスターにとって、特別な年だったかと思います。御社では缶バッジはどのように活用されていますか?
加藤:
缶バッジは、一宮出身の洋画家「三岸節子」の生家跡に建設された「三岸節子記念美術館」に設置したガチャガチャや「一宮モーニング」とのコラボレーション企画で活用してきました。
「三岸節子記念美術館」のメインキャラクター「せっちゃん」の生みの親は、弊社の看板デザイナー「山下ほたる」です。
山下がデザインした「せっちゃん」は美術館はじめ一宮市民の皆さんからも大人気で、学芸員の方から様々な企画をご提案いただいてきました。そのひとつが「一宮モーニング」。
「一宮モーニング」と「三岸節子記念美術館」のコラボレーションの経緯に関しては、美術館学芸員の長岡さんからお話します。
長岡:
「三岸節子記念美術館」学芸員の長岡と申します。株式会社マスターさんには数々の企画を快く引き受けて頂き、とても感謝しています。
三岸節子は、一宮が生んだ女性洋画家の先駆者で、16歳で油絵画家になるために上京し、20歳の時には春曜会のコンテストに女性として初めて入選し画家としてデビューしました。
晩年には、初の文化功労者に選ばれ、生涯を通じて女性洋画家界を先導してきたパイオニアです。
そんな三岸節子のキャラクターをマスターさんに依頼したところ、山下さんがデザインされた「せっちゃん」が大好評。これまでにも、多くのグッズを販売してきました。
そのうちの一つが缶バッジで、8種類+期間限定1種類を1個100円でガチャガチャにて販売しています。
「せっちゃん」の缶バッジは子供から大人気で、特に、夏休みには多くのご家族にお越し頂くことができました。
100年の時を超えて「札幌」と「一宮」を繋いだ「おばけのマ〜ル」
バッジマンネット:
「せっちゃん」の缶バッジは全種類揃えたくなりますね。一宮モーニングとのコラボレーション企画「おばけのマ〜ル」の缶バッジはどのようにして誕生したのですか?
長岡:
三岸節子の夫「三岸好太郎」の故郷、札幌には「おばけのマ~ル」というご当地絵本があります。
札幌に所縁のある絵本作家「けーたろう」さんとイラストレーターの「中井令」さんが手がける「おばけのま〜る」シリーズは、円山動物園や雪まつりなど札幌を中心とした物語が展開されています。
2008年に出版されたシリーズ第4作「おばけのマ~ルとちいさなびじゅつかん」は「三岸好太郎美術館」が舞台となりました。
今回、マールが初めて札幌を飛び出し、三岸好太郎の妻である節子の故郷、一宮が舞台となる最新作「おばけのマ〜ルとモーニングのあとで」が出版が決定。
出版を記念して、絵本原画展が開催され、7月10日から9月30日の会期中には、市内喫茶店を中心に、おばけのマールをイメージしたモーニングメニューの提供と缶バッジを配布する企画が行われました。
「缶バッジはお店で買えないところが魅力!」欲しい人、作りたい人、100周年のかけがえのない思い出。
バッジマンネット:
東京で出会った画家の2人の故郷が絵本を通じて結ばれるのは素敵ですね。「マ〜ルモーニング」はどれくらいのお店が参加したのですか?
長岡:
展覧会中は、一宮で15店舗、札幌で10店舗の合わせて25店舗が参加しました。マ~ルモーニングを食べると缶バッジが貰えます。缶バッジは非常に人気が出て、定番の10色に加えて限定版を追加し、1ヶ月半で1800個をお渡しすることができました。
9月末の展覧会と共に「マ〜ルモーニング」の企画は終了する予定でしたが、お客様から「もっと続けて欲しい」という要望を頂き、来年の4月まで継続することが決まっています。
ハロウィンには、美術館で作ったお面を被って喫茶店に行くと期間限定のハロウィン仕様のマールの缶バッジが貰えるという企画も行いました。
大人も子供もマ~ルモーニングを食べて温かい気持ちになって貰えたら嬉しいです。
バッジマンネット:
「マ~ルモーニング」と缶バッジが、一宮と札幌、そして美術館との架け橋となったのは素晴らしいですね。
加藤:
配布している缶バッジは、お店では買えないところが魅力の一つかもしれません。
街では、缶バッジをカバンにつけておられる方も見受けられますし、喫茶店だけでなく、和菓子屋さんなど異業種の方から「うちも缶バッジのコラボに参加したい」と声をかけられました。
「三岸節子美術館」を軸に、一宮市100周年という記念すべき年に、市民を巻き込んだ楽しいイベントができてとても光栄です。
「家業」から「企業」へ。最先端技術を駆使して走り続ける。
バッジマンネット:
デザイナーの山下さんは「三岸節子記念美術館」の人気キャラクター「せっちゃん」の提案や美術館の看板製作などをされていますが、今回のコラボレーションについてどのように感じておられますか?
山下:
今まで美術館で様々な企画を依頼されて行ってきましたが、こんなに話題になったのは初めてなのでとても嬉しかったです。展覧会が終了した後も一宮市全体が盛り上がっていて、ハロウィン、クリスマスと続いて行くのは、非常にありがたいですね。
「せっちゃん」もそうですが、アイデアを膨らませて、お客様のご要望に寄り添えるようなデザインができた時が最高に幸せです。
バッジマンネット:
山下さんは高校のデザイン科を卒業後、株式会社マスターに入社されたとお聞きしています。志望された理由や会社の雰囲気などについて教えてください。
山下:
私は小学生からずっと一宮市で暮らしてきました。弊社は一宮市と同じように長く地元に根付く老舗の会社です。
幼い頃から美しい七夕飾りを見て育ち、高校時代には地元で愛されるこの会社でデザイナーとして貢献したいと考えて志望しました。
まもなく100周年を迎える古い会社ではありますが、次々と新しい分野への挑戦を続けているので全く保守的なイメージはありません。
バッジマンネット:
山下さんのような情熱を持った才能溢れる若い方が入社を希望されるのは非常に頼もしいですね。100年近い歳月のなかで会社としての苦労や転換期などあれば教えてください。
加藤:
そうですね。頼もしい限りです。弊社では若い社員を毎年積極的に採用しています。現在デザイナーは3名ですが、全く違う個性を持ち、それぞれが異なる分野で素晴らしい成果を出しています。
弊社の最も大きな転換期は、アライグループへ参入した2008年。人数などはそれほど変わっていませんが「家業」から「企業」へと大きな変貌を遂げました。
LEDビジョン・デジタルサイネージのパイオニアであるアビックス株式会社の施工部隊として、看板の電子化をはじめ、最近はサッカーやバスケットが開催される施設内の映像機器(LEDビジョン・マルチ液晶モニター)の設置なども行なっています。
創業当時は映画やリヤカーの看板作成からスタートしたことを考えると、現在、最先端技術を駆使したLED事業に取り組んでいるのは感慨深いですね。
長く愛され続ける秘訣は、お客様にとことん寄り添う温かい気持ち。
バッジマンネット:
100年続く企業は3%以下というデータもあるようです。まもなく100年を迎える御社が長く愛され続けている秘訣などあれば教えてください。
加藤:
そうですね。弊社のメインは看板ではありますが、七夕飾りからサイネージ、今回の缶バッジやキャラクター作成まで、お客様からお願いされた仕事は可能な限り何でもやります。
そのような「柔軟な姿勢」とトヨタ自動車をはじめとする地元企業の方々とのお付き合いが長く続いたことが秘訣なのかもしれません。
そして、やはり、山下のような才能溢れる若い力は会社にとって大きな力になっていると思います。
バッジマンネット:
山下さんは初めての個展となる 「いちばん、あったかい」を開催されたそうですが、どのような個展だったのでしょうか?
山下:
木曽川町にある一宮の古民家ギャラリー「つくる。」さんで11月13日から16日の4日間に渡って「家族、大切な人」をテーマに、私が今まで家族の記念日に贈り続けてきたイラストや工作を展示しました。
もともと、個展をやりたいという夢はありましたが、友人に後押しされて挑戦することにしました。全て個人で行うつもりだったのですが、展示台やポスターの作成など会社のみなさんから様々なバックアップを頂いています。
作品を見てくれた方々が、家族や大切な人のことを思い出して、温かい気持ちになってくだされば嬉しいです。
バッジマンネット:
山下さんの挑戦は、御社にとっても大きな励みになるのではないでしょうか?
加藤:
仰る通りです。弊社としては、これほど喜ばしいことはありません。山下だけでなく、新たなことに挑戦する社員達を全力で応援していきます。作品以外でお金や労力がかかる部分は会社として全面的にバックアップできればと考えています。
市制施行100周年を迎えた一宮市はモーニング発祥の地。1950年代、繊維業が盛んだった頃に、商談などで朝から集まった人々に、ピーナッツやゆで玉子を出したのが始まりだといわれています。
そして、一宮モーニングは「マ〜ルモーニング」でもお分かりの通り、今も進化し続けています。
一宮市出身の三岸節子は、16歳で上京。20歳で目標としていた洋画家としてデビューし、女性画家の先駆者として94年間情熱を燃やし続けました。
「三岸節子記念美術館」マスコットキャラクター「せっちゃん」の生みの親である弊社の山下ほたるも、幼い頃からの夢だったデザイナーの仕事に就きながら、個展開催という夢を着実に叶えています。
市制施行100周年を迎える記念すべき年に、一宮を代表する文化のひとつである「モーニング」と「三岸節子記念美術館」夫である好太郎の故郷、札幌で活躍する「おばけのマ〜ル」が見事に繋がったのは奇跡ではないでしょうか。
これからも「あたたかい、やさしい」気持ちを忘れずに、一宮市民みなさん、地元企業、社員の新たな挑戦を全力で応援し、地域から愛される企業であり続けたいと思います。