写真提供:HANAデザイン事務所

佐賀県に拠点を構えるHANAデザイン事務所。同社は創業以来、ポスター、チラシ、名刺、そして冊子などで、主に紙媒体のグラフィックデザインを手がけてきましたが、5年前に缶バッジの制作を開始しました。
缶バッジは参入の敷居が低いことから、異業界から参入するケースが多く見受けられ、紙媒体を専門としたデザイナーが缶バッジ制作に取り組むケースは少なくありません。

今回は、同社代表・デザイナーの北島久美子さんに、缶バッジに参入に際して感じたことや気づいたことなど、詳しくお話を伺ってきました。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
北島さんは、これまで紙媒体のデザインに携わられてきたとのことですが、缶バッジに参入しようと思ったのはなぜなのでしょうか?缶バッジクリエイターの方はバックグラウンドが多様な印象なのですが、詳しくお話いただけますか?

北島:
紙媒体が斜陽化する中、新規事業を考えていて、紆余曲折があり、缶バッジに辿りつきました。5年間缶バッジを一生懸命作ってきて感じたのは、缶バッジは「紙の続き」だということです。私たちがこれまで蓄積してきた技術の新しいアウトプット先として缶バッジがある。そう感じています。

バッジマンネット:
紙媒体から缶バッジへとアウトプット先が変わったわけですが、最初はどのような缶バッジを制作されたのですか?

北島:
まず、最初に作ったのが「佐賀弁缶バッジ」です。佐賀の方言をひらがなで大きく書いたデザインで全部で約60種類ほどあります。主に地元の方が購入されますね。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
方言缶バッジとは珍しいですね。これはどういった経緯で制作されたのですか?

北島:
これは佐賀に限った話ではないと思うのですが、最近の若い人たちはあまり方言を使わないですよね。方言は、地域にとって大切な文化の一つだと思うので、方言を再認識して欲しいと思い、缶バッジを作りました。
実は、缶バッジの購入者は中高年の方がメインなんです。皆さん、「これ言うね」と面白がってくれると同時に、若い人たちがこうした方言をあまり使わなくなってきていることも認識されます。

バッジマンネット:
ちなみに、若い人たちはどのような反応を示されますか?

北島:
この前、高校生が「あらか」と書かれた缶バッジを探しにきました。「あらか」とは佐賀弁で「ヤバい」に近いニュアンスで使われる言葉なのですが、どうしても学校に持って行きたかったみたいなんです。きっと、学校でネタになると思ったんでしょうね(笑)
老若男女問わず、日常の「ネタ」として方言缶バッジに触れてくださっています。その意味では、コミュニケーションツールとして方言缶バッジが機能していると言えるかもしれませんね。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
北島さんはグラフィックデザインを専門としてらっしゃるので、色使いもすごく気にかけていると思うのですが、方言缶バッジの色のこだわりなどあるのでしょうか?

北島:
缶バッジごとに色分けしているんです。方言と一口に言っても、女性がよく使う表現、男性がよく使う表現ってありますよね。そこで、女性的な表現には赤やピンク、男性的な表現には青を使うことで直感的に缶バッジを選べる仕組みにしています。

バッジマンネット:
色だけで意図を伝えられるのがビジュアルの強みですよね。ちなみに、他にも缶バッジを活用した商品はあるのでしょうか?

北島:
缶バッジのラインナップは本当に幅広くて、花粉症缶バッジ、タオルなどの商品につけるオマケの缶バッジ、企業さんのロゴを施した缶バッジなど、挙げれば切りがないです。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
缶バッジを活用し始めてから5年という短い期間で本当に幅広く商品を展開されていて、物凄いスピード感ですね。

北島:
実は、それが缶バッジの強みだと思っています。缶バッジはアイデアを思いついてから、実際に形にするまでの時間が極端に短い商材だと思います。
PDCAを早く回せるので、「課題の発見→商品化→改善」のテンポを上げて、短期間でクオリティが高いものを作りやすいんです。試作品を作ってみて、どちらが良いかという比較も容易にできます。
それに加えて、缶バッジを使い始めると常に何かアイデアを探すようになるんです(笑)日々生活していて丸い形のものを見かけると、「これ缶バッジのデザインに使えないかな」と考えるようになりました。缶バッジは次のデザインを考える動機にもなっているんです。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
クリエイターさんならではの視点ですよね。常に新しいものを考え続けなければいけない環境下において、缶バッジがデザインを考える動機になっているとのこと嬉しく思います。
実は、これまで何度もデザイナーさんに取材させていただいているのですが、皆さん口を揃えて「缶バッジの台紙が大切だ」とおっしゃるんです。HANAデザイン事務所さんでは、缶バッジに台紙を使っていますか?

北島:もちろんです!このようなデザインにしています。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
台紙は無地なんですね。その代わり、裏にしっかりと情報を記載しているんですね。これまで取材してきた方は台紙の表にしっかりとデザインを施して、缶バッジを際立たせる手法でしたが、背景を無地にしたのには何か理由があるのですか?

北島:
台紙にデザインを施して缶バッジを際立たせる手法もありますが、台紙を無地にすることも缶バッジを目立たせることになると思うんです。特に、方言缶バッジの場合は内容がすごくシンプルかつメッセージ性が強いので、ノイズを入れたくなかったという意図もあります。

その代わり、台紙の裏側には弊社の情報や缶バッジを販売しているショッピングサイトへ誘導するQRコードを記載するなどして、情報量を多めにしていますね。



写真提供:HANAデザイン事務所

バッジマンネット:
なるほど、そういった意図があったのですね。一つ一つのデザインに深い意図が隠されていて興味深く感じます。最後になりますが、今後缶バッジを使ってやってみたい取り組みなどございましたら教えていただけますか?

北島:
まだ詳しく決まっているわけではないのですが、今後は缶バッジのフィルムを使って色々と試してみたいと思っています。新製品の開発に関しては、バッジマンネットさんにパーツ選びなどご相談させていただけると嬉しいです。

バッジマンネット:
もちろんです!これまで和紙や布など変わった素材を使った缶バッジ開発をお手伝いした実績もあるので、可能な限りお手伝いさせてください!