東京・吉祥寺に拠点を置くアニメーション会社WIT STUDIO

アニメーション表現で、受け手の想像を越える映像を生み出し、未体験の感動を提供するというビジョンを掲げるWIT STUDIOは作画に力を入れており、近年では『進撃の巨人』や『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』などの話題作を手掛けています。

そんな同社は「ファンクラブ運営」という少し変わった取り組みを始めました。一般的に作品ごとのファンクラブは存在するものの、制作会社のファンクラブはほとんど存在しておらず、同社はファンクラブを通じた顧客との接点作りに努めています。

こうしたファンクラブ運営の中で缶バッジが活用されているのだそうで、今回は同社の杉山淳さんと五十嵐舞さんに詳しくお話を伺ってきました。




バッジマンネット:
WIT STUDIOさんではファンクラブ運営で缶バッジを活用されているとのことですが、そもそも制作会社のファンクラブ自体珍しいものとお聞きしました。

杉山:
ガンダムのファンクラブやヤマトのファンクラブなど、作品ごとのファンクラブは存在するのですが、制作会社のファンクラブはほとんどないんです。

バッジマンネット:
ファンクラブはどのような経緯で作られたのでしょうか?

杉山:
ファンクラブは私が立ち上げから運営まで行なっているのですが、実は私はプログラマー出身の人間なので作品を作ることができないんですよ。そんな中、自分に何ができるだろうと考えたときに、ファンとコミュニケーションが取れるような仕組みがあった方が良いのではないかと思い、ファンの満足度向上を目的に立ち上げを行いました。

ファンクラブに入っている人はイベントチケットを優先的に買えたり、そこでしか購入できない記念グッズを販売したりする場を設けたかったんです。そこでまず最初に作ったのが缶バッジでした。




バッジマンネット:
缶バッジはどのように活用されたのでしょうか?

五十嵐:
ファンクラブの年会費をお支払いいただいたファンの方に会員証として缶バッジをお配りしました。それに合わせて弊社に関連するグッズなどもお送りさせていただきましたね。ファンクラブの会員限定のイベントにご招待して、物販を行なったりスタジオツアーなどを行うなど様々な取り組みを行いました。

バッジマンネット:
実際に缶バッジを運用してみてどのような感想をお持ちですか?

杉山:
アニメと缶バッジは相性が良いですね。「グッズを買ってくれた方に缶バッジプレゼント」と告知することがあるのですが、アニメの場合は一人一人が好きなキャラクターを持っていて、同じグッズでもデザインされているキャラクターで需要が極端に偏るんです。

そのため、それぞれのキャラクターでまとまった数のノベルティを作ると必ず余りが出てきてしまうので、オンデマンドで必要なものを必要な数だけ制作できる缶バッジはアニメ業界と相性が良いと思います。




バッジマンネット:
確かに、プロ仕様缶バッジマシンがあればオンデマンドで缶バッジを作成することができるので無駄は生まれないですよね。他にも缶バッジを活用していて気づいた点があれば教えていただけますか?

杉山:
オンデマンドで必要なものを必要な数だけ作ることができるため、他のノベルティでは絶対に提供できないようなマニアックなデザインを施せることも缶バッジの特徴だと思います。アニメ業界はファンになる入り口がすごく細分化されているんですよ。単にアニメが好きなのではなく、背景に写っている小道具だったりとか、ちょっとしたロゴだったりとか…

例えば、弊社が制作している『ローリング ガールズ』という作品に登場する小道具やロゴなどをモチーフにした缶バッジを販売した際、ファンから「こんなのまで作ってくれたの?」と反響がありました。作品のファンにとってすごく価値が高いものなんですね。こうしたニッチな需要の受け皿としても缶バッジは機能していると思います。



画像提供:WIT STUDIO

バッジマンネット:
ちなみに缶バッジを導入されてから社内での活動などに何か変化はあったでしょうか?

五十嵐:
地域で開催されるイベントに会社として参加して、そのイベントで缶バッジを配りたいから作って欲しいと言った依頼を社内から受けるようになりましたね。他にも、弊社の新人研修などでロールプレイを行う際に、名札代わりに缶バッジを活用するといったこともあります。

杉山:
他にも、原画を缶バッジにするアイデアも生まれましたよ。弊社はアニメの制作会社なので、社内に大量の原画があるんですよ。原画はいわゆる産業廃棄物に近いもので、社内に保管しておくと場所もお金もかかるので捨てられてしまうものなのですが、ファンにとってはすごく価値が高いものだと思ったんです。これを缶バッジにしたら面白いんじゃないか思い、缶バッジにしたところ反響がありましたね。



制作後に産業廃棄物として廃棄されてしまうアニメーションの「原画」を缶バッジにすることで、新しい価値を生み出した

バッジマンネット:
制作会社の強みを生かした他社では真似できない缶バッジの活用方法ですね。最後に今後の展望についてお聞かせいただけますか?

杉山:
制作会社は普段、ファンの顔を生で見ることができないので、我々にとってファンクラブはイベントを通じてファンと直接交流できる貴重な機会なんです。

以前、「缶バッジの会員証を持参するのを忘れた」という会員の方がいらしたのですが、以前も参加されていた方だったので「顔が分かるので大丈夫ですよ(笑)」と顔パスができるなど、制作会社とファンの距離感がすごく近くなっていることを実感しました。

現在はコロナ禍で活動が何かと制限されてしまいますが、今後、さらにファンとの交流を深める取り組みを模索していきたいと思います。