広告やマーケティングの視点から、私たちは「コミュニケーションの新しい時代に入った」と言われます。

それは、インスタグラムやツイッター、フェイスブックといったソーシャルメディアによって、企業やブランドが消費者と双方向に交流をして参加をするということを意味します。




そのような誰でも『参加者』でしかないフラットな仕組みは、素の自分を磨く一番の薬なのかもしれません。

「人を最も騙すのは、自らの意見である」と言っていたのは、数え切れない偉業を残したレオナルド・ダ・ヴィンチ。自分以外の人の視点を取り入れることの重要性を悟ったダ・ヴィンチは、「自分の作品よりも、他人の作品の誤りを見つけるほうが簡単だということを我々は知っている」とも述べています。

言い換えれば、私たちは人の欠点には聡くとも、偏った不完全なレンズによって自分の欠点は簡単に見逃し続けてしまうのです。



複数の視点がなければ問題は解けない。自分の視点には偏りがあると知っていたダ・ヴィンチは、自分の絵を人が描いたもののように見るために、鏡に映して覗くなどしていた。

今の自分にはないレンズで見ることを大切にするという点で、漫画家の藤子・F・不二雄は、40年以上前に「ドラえもん」の原稿を持ち込んだ時点で編集部から「古い」というコメントをもらったといい、それをある意味強みとして「ドラえもん」を描き続けていたようです。

古いと言われた藤子・F・不二雄は、素直に少年時代の自分自身に還って「あんなことができたら」「あんなものがあったら」と空想を広げ、それと合わせて周りのみんながどんなことをしたがっているのかに心を配りメモをして集め、「ドラえもん」のひみつ道具を生み出していきました。

そして今なお現在進行形で、世界中に「ドラえもん」ファンは増え続けています。



高度成長期に大人たちが未来の成功を追い求めていく中で、古い視点で未来の道具を生み出していった藤子・F・不二雄

SNSによってソーシャル・ネットワークのコンセプトが広く普及した今、コミュニケーションの新時代を一歩進めるには、参加者として関わる『ソーシャル・プロダクション』をどれだけの人が感じられるかにかかっているのかもしれません。

「ドラえもん最新ひみつ道具大事典」という本に収録されているひみつ道具の数は約1600個だそうですが、これからソーシャル・プロダクションによって、ハードウエアでもソフトウエアでも、ひみつ道具のように果てしなくアイデアを生み出し続けることが可能になっていくでしょう。

そういった意味で日本には以前から、売る側も買う側も、コスプレイヤーも含めて全ての人を『参加者』と呼んできた、世界最大級の同人誌即売会コミックマーケット、コミケがあります。



コミケのクリエイターは、お客さんのいるところでアウトプット繰り返して才能を磨く。そのレベルアップに関わる人はみんな同じ「参加者」。

どんな才能も他の人の参加なくしては磨かれることは難しく、日本の漫画がこれだけクオリティが高いのは多くの人の参加を支え、育んできたコミケあってこそといっても過言ではありません。

今回コロナウイルスの影響で5月の開催中止が決まった「コミックマーケット98」は、それをエア(ネット上)で開催する動きが自然発生的に湧き上がり「エアコミケ」運動が広がっています。

その告知として開催された「エアコミケ準備室 開幕式」のニコニコ生放送は、およそ11万人が視聴したとのことで、コミケ史上初めて、ネットだけのコミケが実現するとして盛り上がりを見せています。

昨年末の来場者数は75万人を記録したコミケ。その豊かなエコシステムによって、今年のように予想のつかない展開があっても、いかようにも進化を遂げていくでしょう。



エアコミケ当日は、いつものリアルコミケと同じように朝4時起きでスタンバイする、など参加者の意気込みが高まっている

そんなコミケでよく見かけるアイテムの一つに缶バッジがあります。それも、缶バッジがその場に集まる人に自分が参加している気持ちを沸き立たせる性質を持つことが関係しているようです。

実際、観光地や博物館、あるいはライブ会場などで、入場料と引き換えに缶バッジをもらい、それを帽子やバッグなどにつけて見学するというスタイルを自ら体験したことがある人は少なくないのではないでしょうか。



紙のチケットに印刷されている絵と同じだったとしても、缶バッジになって身につけるだけで気持ちの湧き方が不思議と変わる

缶バッジを身につけるとなぜだか心が躍る気持ちになるのは、バッジというアイテムが「参加者の証」として使われてきた歴史にもうかがうことができます。

振り返ればガンジーによるインドの独立運動においてもバッジの人気は高まりましたし、60年代70年代のヒッピーたちは「Free Love」バッジをつけてそのモットーを共有していました。

世界にメッセージを投げかけてきたジョン・レノンもバッジクリエイターの一人でしたし、バッジはそもそも海外では、社会的なムーブメントの参加者たちが身につけて広まった文化なのです。



ムーブメントの背景には缶バッジがある。2017年にイギリスの大英博物館で開催された、LGBTQの歴史を辿る展示では、400種類もの缶バッジが展示されたという。

日々流れてくるニュースでさえも、もはや一方通行で成り立ってはおらず、インターネット上で一般の人々がそれぞれの見方を付け加えたコメントまで含めて、一つの情報として感じられるようになりました。

自分も他人も、時代を共に生きる一人の参加者なのだとしてソーシャルプロダクションを突き進めていくならば、アイデアの数は無尽蔵。コロナ禍でこれほどの苦境にあっても手詰まりにならずにいられるかもしれません。

人々がフラットな気持ちで何かに参加することの喜びを、こんな時だからこそ缶バッジによって支えていきたいと思います。