建国55年になるシンガポールは『貿易のハブ』として発展し、今やシンガポール港の取扱貨物量は世界ランキング第2位を誇ります。
しかしそれ以上にシンガポールは、テクノロジーに特化した人材・企業の集まる『ITのハブ』としての存在感をますます大きくしていて、例えば中国のIT巨人アリババも2018年、AIの研究機関を中国国外で初めてシンガポールに開設をしたとして注目を集めました。
そんなIT先進国シンガポールにはその政治を動かす “ギークの大臣” がおり、2015年から外務大臣を務めているビビアン・バラクリシュナン氏も、元ハッカーと言える人物です。
学生時代にはゲームをハックして自己流にアレンジしたりしていたというビビアン氏。さらにシンガポールを押し上げていくために次世代のシンガポール人に求める「ABC」として、次のようなメッセージを発信しました。
- Aesthetics 「いい」という美的感覚
- Building つくる意欲、つくるスキル
- Communication コミュニケーション力
自分がやりたいように動かしたくてハッキングをしていたというビビアン氏のように、自分がいいと思うように小遣いや時間を費やして上手くできたことを、「これを見た人はビックリするかな?」というようなシンプルなノリで人に伝える。この「ABC」プロセスが今の時代、多くのビジネスのスタート地点になっています。
そもそも、著名なデザイナーや作家、建築家は自分の中での「いい気持ちライン」というものを持っているという話があります。
何度やっても何度見直しても退屈しない、自分がそういう気持ちになれるものをつくることで多くの人を惹きつけているため、マーケティング的なベンチマークやライバル製品ありきのものづくりをしていません。
実際、「いい気持ちライン」とは対極に、競争の中でものづくりをしていると負のエネルギーに支配されるような気持ちになるものですが、そういう気持ちでつくり出したものを「人に伝えたい」とは思う人はなかなかいないでしょう。
人から人へと共感が膨らみビジネスが大きくなっていく社会においてはもう、つくる人の気持ちがネガティブになってしまうものづくりは通用しないのかもしれません。
まずは、自分にとって「いい気持ちライン」で何かをつくる、という経験を重ねることが大事なのは間違いなく、昨今、缶バッジづくりもその一つの場として活用されいます。
自分でデザインを決めてつくり、でき上がったものをSNS、あるいは自分で身につけるなどして簡単に発信をすることができるという意味で、缶バッジづくりでは「ABC」サイクルをすぐに、何度も繰り返すことができます。
お子さん連れのご家族が缶バッジづくりを体験されると、「もう1回」「もう1回」と親御さんがお子さんに泣いてせがまれる様子も見受けられるのですが、実際、自分の満足いくものに辿り着くのには、何もないところから完璧なインスピレーションが降りてきたなんていうことはなく、作家が何度もストーリーを書き直すように自分の手を動かしながら近づいていくものです。
缶バッジのようにシンプルなものから「いい気持ち」を追求するものづくりが習慣づくことで、「ABC」人材が未来の社会に増えていくように思います。
振り返れば、大量生産の時代は缶バッジの業界においても、つくるためのツールが高価で素人には使いづらく、また、自分のつくったものを見てビックリしてくれるような人を増やすのは、よほどフットワークが軽くない限り、とても面倒なことでした。
しかし、現代の缶バッジづくりにおいて「費用が高い」「使いづらい」「面倒」というハードルは一切ありません。
そんなに多くの資金を費やさずに、「ABC」で面白いことを仕事にすることができる世の中です。
世界のクラウドファンド市場が2012年からの3年間で10倍以上の成長を記録しまだまだ膨らみ続けているということからも、「ABC」人材がどれだけ多く育つかによって、企業、まち、ひいては国の豊かさが左右されるというような未来が垣間見えます。
すでに日本の地方都市でも「どれだけたくさん稼げるか」という点では東京に勝ち目がない分、「どれだけ楽しく稼げるか」が、いい人材を集めるためにますます重要になってきているのです。
「明るい北朝鮮」とも呼ばれるシンガポールは事実上の一党独裁体制にあり、政府の悪口を言うと逮捕されかねないという一面を持ちながら、ついに今年、“ビジネスの自由度”、“労働の自由度”、“金融の自由度”などの項目で自由経済の度合いを評価する「経済自由度指数(Index of Economic Freedom)」で首位に輝きました。
人材やビジネスがシンガポールに集まるのは何故なのか。前出のシンガポールのビビアン大臣は、「子どもにツールをきちんと与えれば、子どもは大人を圧倒することをやってのける」と話しています。
既製品を消費するばかりだった日々を省みて、理屈抜きに「いい」という感覚を追いかける次世代型の暮らしに向けて缶バッジが活用されていると思うと、なんだかとてもいい気持ちになるのです。