科学に基づいた「西洋医学」に比べ、比較的根拠の薄いと言われる「東洋医学」に対しては、どこか懐疑的な印象を持つ方も多いかもしれません。
しかし近年、西洋医学で適応できない症状を治療したり、西洋医学を補完・代替する手段として東洋医学が再評価されており、実際に大学病院などにおいても一定の成果を上げ始めているのだと言います。
こうした流れは獣医療の世界においても同様で、 かまくらげんき動物病院 では、東洋医学と最先端の西洋医学を統合した治療が利用者からの高い評価を集めているようです。
活動の一環では缶バッジも活躍しているそうで、今回は院長の石野さんと、副院長の相澤さんにお話を伺います。
ペットの治療に東洋医学が求められている理由「人間と同じでペットも超高齢化している」
1993年の開院当初から、漢方や鍼灸といった東洋医学を活用しながら1日に30〜50匹の動物を診療してきた、かまくらげんき動物病院。
獣医療に東洋医学を応用することに対して、当初は同業者からも懐疑的な眼差しで見られることもあったそうですが、現在では東洋医学を用いた治療のニーズは増えてきていると、院長の石野さんは次のように教えてくださいました。
「この30年間くらいでペットの寿命がすごく伸びていて、人間で言うところの超高齢化社会のような状態になってきています。それに伴って、西洋医学だけでは解決が難しいペットの病気や問題もたくさん出てくるようになっているんです」
「それに加えてもう一つ顕著なものとしては、飼い主の方の意識の変化が挙げられます。例えば人間でも鍼灸や漢方を試されている方がいらっしゃると思いますが、ペットも同じで、『強い薬ではなくて、出来るだけ体に優しい治療をしてあげたい』と希望される飼い主の方の声をよく耳にするようになってきているんです」
「犬の場合、うちに来てくれているのは15歳〜18歳の高齢のワンちゃんが多いんですけど、10年くらい前までだと、もう歳だからって諦めちゃう飼い主の方が多かったように思います。でも最近は、『できることは何でもしてあげたい』という方が比較的増えているように感じますね」
東洋医学の本当の強みは、病気を治すところではなく、病気を予防するところにある
こうして変化している飼い主の要望を踏まえた上で、病気の治療に取り組んできた、かまくらげんき動物病院。しかし、東洋医学の最大の強みは病気を治すところではなく、病気を予防する「養生」の部分にあると、副院長の相澤さんは次のように教えてくださいました。
「病院は、一般的には病気になってから行く場所ですよね。でも、東洋医学の場合は、病気にならないように健康を管理していただくという『養生』の部分が一番得意なところなんです」
「例えば、食事療法やマッサージ。あとは生活環境に気を配ってあげることも大切です。『ペットの体を冷やさないように、温めてあげてください』などのアドバイスをしますね」
「そうした点は、病気をしていない元気な時には目が届きにくいところですけど、ペットが若い時から意識してやっておくと健康に良いはずなんです。それを皆さんに知ってもらいたいし、私たちとしても、その部分での動物病院の利用をもっと伸ばしていきたいという考えがありました」
そこで院長と副院長は、普段の診療とは別途で、東洋医学を広げる活動を自分たちで行うようになったのだと言います。
「『東洋医学ってどういうものなの?』や『ペットに東洋医学ってどういうことなの?』という点を飼い主の方に説明する講座や、ペット鍼灸体験会と言って、鍼灸を実際に体験してもらう講座。あとは、肉球講座という合計3つの公開講座を、月に2回くらいのペースで始めたみたんです」
「そういう講座を行うことで東洋医学に対する理解も広がりますし、ペットが病気にかかっていないとしても、動物病院に来てもらうきっかけができますよね」
「実はその講座で活用しているツールの一つが缶バッジなんです。研修で台湾に行くことがよくあるのですが、台湾ではセレクトショップなどに置かれている缶バッジがすごく人気なんですね。それを私たちの取り組みでも活かせるんじゃないかと考えたんです」
ペットが減少する未来にそなえて、缶バッジで飼い主の方々との信頼関係を築いていく
お二人によれば、開設している3種類の講座全てを受講した方や、ペットのトリミングサービスを利用した方に配布を始めているという缶バッジ。
動物病院と缶バッジというと一見関連性がないようにも思えますが、缶バッジの配布をはじめた背景には、動物病院を取り巻いている現在の状況が関連していると、次のように教えてくださいました。
「今は高齢のペットの数が多いので、動物病院は割と忙しくさせてもらっているんです。でも実は、ペットの寿命が延びている一方で、新しくペットを飼う方やペットの数というのは減少傾向にあるんですね」
「ですので、今まで動物病院は増えてきましたけど、3年後や5年後にはどうなっていくか分かりません。そこで私たちも、飼い主と距離を縮めたり、認知度を高めていく活動をしなければいけないわけなのですが、そのきっかけの一つに缶バッジというアイテムが良いんじゃないかと思ったんです」
「例えば、缶バッジを介した会話をきっかけに今まで以上の信頼関係を築くことができれば、病気の時はもちろん、検診の時や些細な相談でも病院に来やすくなると思うんですよね」
「それに、犬だったらお散歩に必ずいくので、お散歩バックやペットのお洋服に缶バッジを付けてもらいやすいです。そうすると、お散歩先でご近所さんに会った時に缶バッジが目印になって、うちの病院のことを口コミで伝えてくれる可能性もあります」
こうした活動を通して、病気にかかってしまったペットの治療だけではなく、健康なペットの養生も含めて「地域の動物の元気をサポートする健康ステーション」を目指していると語る院長と副院長のお二人。
「病気を治療する場所」という、これまでの病院の枠を越えようと躍進するかまくらげんき動物病院の取り組みから、今後も目が離せません。