かつて、日本マクドナルドが新メニューに関するアンケート調査を行なったところ、「低カロリー」や「ヘルシー」といった健康志向の希望が多数挙がったのだそうです。

しかし蓋を開けてみると、ヘルシーメニューを希望していた若い女性客たちは、ビッグマックやクォーターパウンダーといった、お世辞にもヘルシーとは言えない商品を平気で注文したと言います。

さらに、ハンバーガーに使う肉の量を大幅に増やした「メガマック」を発売したところ、これまた大ヒットを記録したのだそうで、結局、顧客が求めていた商品は本人の希望とは真逆だったのです。

その意味では、もしかするとお客様は「自分が本当に欲しいもの」を理解していないと考える方が自然なのかもしれません。




ある調査によれば、私たちが何らかの意思決定を行う回数は、1日あたり35,000回にも上るものの、そのうち95%は無意識のうちに行われていると言い、私たちが自らの意思で行う選択はたったの5%に過ぎません。

つまり、お客様の本音や希望の95%は心の奥底に隠れていることになりますが、この隠れた95%の需要を引き出すために、これまで企業が取り組んできたのが宣伝広告や営業です。

日本が一億総中流と呼ばれていた時代に「大衆」という言葉が生まれたように、当時は人々が似たような物を求めていたため、全ての人に向けて同じような宣伝メッセージを送っても確実に売れました。

顧客が欲しがるものは大体同じだという前提のもと、企業が発信した情報は、顧客に確実に伝わり、「“伝える”コト」と「“伝わる”コト」は同義だったのです。



安価かつ手軽に作れる缶バッジも、自社の宣伝広告を担うノベルティグッズとして広く定着してきた。費用対効果の高さが注目され、今では宣伝として缶バッジを使うことはスタンダードになった。

しかし今の時代はそうではありません。すでに最低限のニーズが満たされた現代では個人の好みや要望は細分化され、「“伝える”コト」と「“伝わる”コト」は必ずしも一致しなくなりました。

そんな時代に求められているのは、お客様が自覚していない「本当に欲しいもの」や「根本的な問題点」を提案することであり、それはすなわち、「問題解決型の広告・営業」です。

例えば、ティッシュ配り一つとっても、闇雲に配ったところで誰も受け取ってくれないでしょうが、もし花粉症やインフルエンザが流行っている季節に、鼻をすすっている通行人にティッシュを配れば、顧客の問題解決と自社の宣伝を両立させることができるでしょう。



単なるノベルティグッズとしてではなく、新しい広告・営業のスタイルとして缶バッジを活用できないだろうか。手軽に導入することができる缶バッジだからこそ、どんどん新しい試みに挑戦したい。

実は弊社のお客様の中には、缶バッジを活用して、顧客が自覚していない「本当に求めているもの」を引き出すマーケティング施策を行なっている企業様がいらっしゃいます。

それは東京諸島観光連盟です。あまり知られていないことですが、東京には、大島、利島、大島といった11にものぼる離島があり、同社は東京都庁や各種観光団体と連携して、東京諸島のプロモーション活動を行なっています。

そんな東京諸島観光連盟が抱えていた悩みが、東京の離島の知名度の低さです。東京諸島を知らない人に単に東京諸島の魅力を直接的に伝えても、お客様に関心を持っていただけないため、同社は、缶バッジを活用して少し変わった角度から顧客にアプローチを始めました。





弊社の缶バッジを導入している東京諸島観光連盟の事務局長、照沼好美さん

同社は、東京諸島が野鳥で有名なことに着目して、「ジャパンバードフェスティバル」という日本最大級の野鳥イベントに出展し、同イベント会場で、野鳥の塗り絵を使った手作り缶バッジイベントを企画したのですが、これが効果的だったと言います。

同イベントの参加者は小学生の子どもが多く、親御さんが会場に子ども達を連れてくるとケースが多かったようで、子ども達が缶バッジを作っている間、東京諸島観光連盟の担当者は、手持ち無沙汰になってしまった親御さんと世間話を始めました。



東京諸島にか生息しない「イイジマムシクイ」の缶バッジ

会話をする中で、「子どもが海に行きたがっているけれど、夏休みの海はどこも大混雑しているし、どこの海に連れて行けばよいか」という親御さんの悩みに対して、担当者は「実は東京諸島は都心から近くて、ビーチも綺麗なのに、人が少ない穴場なんです」と耳寄り情報を提供しました。

すると、その親御さんは東京諸島に大変関心を持ち、パンフレットを持って帰ってくださったようです。こうした活動の甲斐もあって、同社への問い合わせは増加傾向にあると言います。



都心から船で2時間ほどでアクセスできる新島。ビーチの美しさが魅力の一つで、サーファーたちも訪れるようだ。

今回ご紹介したケースでは、東京諸島観光連盟は缶バッジを活用し、企業と顧客との間に接点を作ることによって、世間話を通じてお客様の本心を引き出しました。

「お客様が本当に欲しいものを自覚していない」時代において、缶バッジを活用して、お客様が本当に求めているものを理解した上で、自分たちが伝えたいコトを相手の状況に合わせてチューニングした同社の戦略は大変興味深いものがあります。

同社の缶バッジを活用した取り組みは、他の企業様のマーケティング施策にも応用が効くのではないかと期待しています。