東京都には大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島、父島、そして母島の合計11島の離島があり、それらを総称して「東京諸島」と呼ぶのですが、東京都に離島があること自体、知らなかった人も多いのではないでしょうか。

そんな東京諸島には、サーファーの聖地と呼ばれる新島や、火山の島の三宅島など、観光名所と呼べる場所がいくつもあるにも関わらず、認知度の低さもあって、観光客の数はあまり多くありません。

 

 


サーファーの聖地、新島(写真提供:一般社団法人 東京諸島観光連盟)

 


火山の島として知られる、三宅島(写真提供:一般社団法人 東京諸島観光連盟)

 

そうした中、東京都庁や各種観光団体と連携して、東京諸島のプロモーション活動を行なっているのが、一般社団法人 東京諸島観光連盟です。

興味深いことに、東京諸島観光連盟はプロモーションに缶バッジを活用し、東京諸島とは直接的に“関係のない”イベントに出展することで宣伝活動を行うという、ちょっと変わった宣伝戦略を実践しています。

そこで、今回は東京諸島観光連盟の事務局長である照沼好美さんにお話を伺いました。

 

 

 

日本最大級の“野鳥”のイベントに出展した東京諸島観光連盟「缶バッジは、他分野との接点を作ってくれる接着剤」

「東京諸島を知らない人たちに、『東京には離島があるんですよ。海が綺麗で、島民も優しくて、リラックスできますよ』と話しかけても、関心を持ってもらえないんですね。そこで缶バッジを使ってイベントに出展し、別の角度から東京諸島の存在をアピールすることにしました」

「実は東京諸島は野鳥が有名な島でして、三宅島のアカコッコ、八丈島のオオミズナリドリ、あるいは母島であればメグロなど、それぞれの島にしか生息していない固有の野鳥がいるんです」

「そうした野鳥の写真を缶バッジにして、日本最大級の野鳥のイベント『ジャパンバードフェスティバル』に出展してみたんです。そのイベントには野鳥に興味がある方が大勢いらっしゃるので、『東京諸島に生息する』野鳥の話なら耳を傾けてくれるのではと考えたのです」

 

 

 

 

「さらにイベントで野鳥のイラストの塗り絵をしてもらって、それを缶バッジにしてお子さんにプレゼントしました。実は『塗り絵』をしてもらうというのが缶バッジのミソなんです」

「こうした大型のイベントはお子さんがメインで参加されていて、親御さんたちは付き添いで来場するケースが多いんです。なので、お子さんが塗り絵に夢中になっている間、親御さんは手持ち無沙汰になってしまいます。そこで、東京諸島のパンフレットを持って親御さんに話しかけるんです。そうするとお話を聞いてくださって、パンフレットも持って帰っていただけるんです」

 

 


あるイベントでの缶バッジ制作風景(写真提供:一般社団法人 東京諸島観光連盟)

 

宣伝は人対人のコミュニケーションの一種だと言え、それは言い換えると、こちらが伝えたいことと相手が知りたいことがマッチしていなければ会話が成り立たないことを意味します。

照沼さんは「缶バッジがなければイベント出展でプロモーション活動は成り立たない」と話していましたが、もしかすると缶バッジは、こちらが伝えたいメッセージを、相手が興味を示す形に「翻訳」する役目を担っていると言えるのかもしれません。

 

 

缶バッジには、自分が伝えたいメッセージを、相手が興味を示すカタチに「翻訳」する力がある

 

こうして東京諸島とは直接的には関係のないイベントに数多く出展している東京諸島観光連盟ですが、担当の照沼さんは、こうしてプロモーション活動に力を入れているのは、島を訪れなければ分からない島の魅力があるからだと力強く語っていました。

「島を訪れる方の目的は、大自然、夜空の星、あるいはスキューバダイビングなど様々ですが、中でも多いのが『島の人に会いに行く』ために訪れるという方ですよ。最初はサーフィンが目的だったのに、気が付いたら島のファンになっていた、という方が本当に多いんです」

「島はすごく狭いので、みんな顔なじみ。なので家も車もカギは開けっ放しですし、いま都市部で問題になっている宅配便の不在票問題も、島では宅配便の方が玄関を開けて、家の中に入って荷物を置いてくれて、ときには家の人が宅配便の人にご飯を振舞ったりと本当に距離感が近いんですよ」

「一般的に離島の人は排他的だと言われることがありますが、東京諸島の島民の方は、来島者に積極的に話しかけ、困っていることがあれば助けてくれる。やはり都市部と比べれば、不便なことも多いので、島民・観光客関係なく、互いに支え合って生活するという文化があるんです」

「島でそういった体験をすることで、島のことを第二の地元と呼び、週末になると島に『里帰り』する方もいらっしゃいます。観光スポットは一度訪れれば『楽しかったね』で終わってしまいますが、東京諸島のような『第二の故郷への里帰り』といった旅行スタイルであれば、何度も繰り返し訪れるリピーターの方がいらっしゃいますね」

 

 


東京諸島では、観光地を巡る旅行に加え、「第二の故郷への里帰り」をテーマとした旅も当たり前になりつつある。(写真:一般社団法人 東京諸島観光連盟)

 

このように近年は観光において「現地民とのコミュニケーションが観光資源になる」と言われるようになり、確かにそれは事実なのかもしれません。

しかし、現地民とのコミュニケーションは、島に滞在する中で結果的に生まれる産物であるため、それを前面に押し出してプロモーションをかけても、島を訪れたことのない人には、その魅力はなかなか届かないものです。

だからこそ、現状を客観視し、缶バッジを活用したイベント出展が宣伝活動を行う上で重要なのだそうで、イベント出展を繰り返し行う中で客層に変化が生まれたと照沼さんは話します。

 

 


缶バッジイベントでの様子(写真:一般社団法人 東京諸島観光連盟)

 

「缶バッジを導入してからというもの、お子さんの数がグッと増えました。缶バッジを導入する前、普通にパンフレットをお客様にお配りしていた頃は、離島に興味を持たれるのは、どちらかというと中高年のお客様だったんですね」

「考えてみれば当然で、パンフレットを見て離島に行きたい!というお子さんはあまり多くないでしょうから。ところが、先ほどお伝えした鳥のイベントなどを通じて、お子さんが主導となって『島に行ってみたい!』と言って、親御さんを引っ張っていくということが少しずつ増えてきているように感じます」

こうした様々な宣伝活動の成果もあってか、近年では、東京諸島を訪れる観光客の数が緩やかな増加傾向にあるようで、少しずつ島の魅力が観光客に伝わっているという実感があると照沼さんは話します。

 

 


写真提供:一般社団法人 東京諸島観光連盟

 

本当に魅力的なものであっても、新しいものを提案する際は、直接的な表現方法ではなかなか相手にその魅力が伝わりにくいものです。

そんな中、缶バッジの力を借りて、自分たちのメッセージを相手に伝わる形に「翻訳」して魅力を伝えている東京諸島観光連盟の活動は、他の業界にも応用ができるのではないでしょうか。

この先、旅行の目的地に「東京諸島」という選択肢が自然に挙がってくる日が来るのを期待しています。