コミュニケーションスキルを身につけるために、学生のときに接客のアルバイトを経験するべきだと、よく耳にすることがあります。
たしかに学生の日常は、学校と家庭で完結することが多く、そういった意味では、普段話すことがない人と接するためには、接客業が一番効率的なのでしょう。
しかし、カフェでもレストランでも、マニュアルに載っているような決まり切った会話しかしないお店もあり、同じ接客業でも機械的に感じることも少なくありません。
そんな中、高円寺にある素人の乱5号店というリサイクルショップは、「接客」ではなく「友達作り」をするように、お客さんと関わります。
そこで今回は、店主の松本哉さんにお話を伺いました。
松本さんは、お客さんとのやり取りについて以下のように語ります。
「リサイクルショップをやっていると、商品の配達や買い取りで、家に入れてもらうことがあったりするので、お客さんとの関係も必然的に近くなるんです。何回も頼んでくれるお客さんとは、すごく仲良くなりますよ」
仲良くなった人は、近所のお年寄りから、サラリーマン、短期滞在の海外の人などと様々で、そのような多種多様な人々がお店に来るきっかけになっているのが、缶バッジマシンです。
若い世代とリサイクルショップの接点になる缶バッジマシン「普通に営業していたら、高校生はお店に来ない」
手に取っているのは、店舗で缶バッジを製作する際に、お客さんに貸している缶バッジマシン。
缶バッジマシンを使ってくれるのは、地元のバンドマンや、高校生、大学生などの若い年齢層が多いと松本さんは語ります。
「バンドマンのライブの物販って、CDとかTシャツが定番ですけど、手軽に買えるものとして、缶バッジがあると良いみたいですね。高校生は学園祭とかで使ってくれているみたいです」
「こっちからしてみたら、高校生との接点なんて普通はほとんどないじゃないですか。でも缶バッジはお店で作るので、作っている間は色々な話ができます。バンドマンには『どんなバンドやってるの?』って聞いてみたりして、それで友達になったりできる」
「裏面がへこんでいて、服にちゃんとピッタリつく缶バッジなので、つけたときに格好良く見えるんです」と松本さんは語る。
松本さんによると、缶バッジマシンは、遊び半分でお客さんに使ってもらっているのだそうで、そのようにして、ところどころに遊びを取り入れることが、お店を長く続けるコツだとして以下のように語ります。
「もともと缶バッジは、高円寺の貧乏なやつらとか、若いやつらを応援してあげたいなと思って、遊び半分で始めたんです。別に缶バッジ自体が商売になるわけではないですからね」
「でも、その時に知り合った人たちが、引っ越しの時に頼んでくれたりするんです。だから、真面目に商売をやり過ぎないことが、お店が長く続いている理由なのかもしれません」
缶バッジなどを介して知り合いになった人が、結果的にリサイクルショップを利用してくれるのであれば、人との繋がりを大事にすることは、お店の経営にも繋がっているのだと考えられるかもしれません。
さらに松本さんは、仲良くなった人が高円寺の街を楽しむことができるように、「マヌケ宿泊所」というゲストハウスと「なんとかBAR」という酒場も運営しています。
「缶バッジみたいに、人と繋がることを大事にやっていると、お店にどんどん友達が遊びに来るようになるんですよ」
「でもリサイクルショップだと、10分程度の世間話でお互いに手持ち無沙汰になってしまうんですね。なので、お酒を呑む場所があればもっと話ができるかなと思って、バーを作りました」
「バーにしたら今度は、九州とか海外とか、遠くから来てくれた友達が一晩だけで帰ってしまうのも寂しいなと。それで、ちょっとでも滞在してもらうためにゲストハウスを作ったんです」
そのように、バーや、ゲストハウスという、リサイクルショップ以外の接点からも松本さんと仲良くなる人が増えました。
一般的なお店では、お金を払うのはお客さん側と決まっていますが、リサイクルショップを経営していると「お店側がお金を支払って、お客さんから品物を買う」というステップを挟むため、どちらが上でも下でもない、友達のような関係が築きやすいのかもしれません。
リサイクルショップの品物が住民から住民に循環するように、今日も彼の友人が、お店に出たり入ったりしていることでしょう。